経営事項審査(経審)の準備で、毎年いちばん手間がかかるのが工事の契約書類集めです。元請からもらった注文書はあるのに請書が見当たらない、契約書を交わさずに口頭で受けた工事がある、という会社は少なくありません。この記事では、熊本県の経審で契約書類がどう見られるのか、注文書しかないときにどうすればよいのかを、熊本県の「経営事項審査申請の手引き(令和8年7月版)」にそって説明します。
この記事のポイント
- 経審で契約書類を付けるのは、審査を受ける業種ごとに、請負金額の大きい順の上位3件です。元請・下請の区別はありません
- 認められるのは「契約書」「注文書と請書の組み合わせ」「官公庁の請書や施工証明書」のいずれかです。注文書だけでは足りません
- 請書が無いときは、注文を受けた会社が、注文書と同じ内容で請書を作って相手に渡します
- 請書をPDFにしてメールで送る形なら、紙を渡さない限り印紙税はかかりません
- 契約書類で業種が確かめられない工事は、審査を受ける業種ではなく「その他工事」として扱われます
契約書類を付けるのは「業種ごとの上位3件」

熊本県の手引きの提出書類一覧では、完成工事高に係る工事の証明書類として「工事請負契約書、変更契約書」または「注文書、請書」を付けることになっています。付ける範囲は、申請する業種ごとに、元請・下請の区分なく請負金額の上位3件だけです。
注意したいのは、工事経歴書に書いていなくても、請負金額が上位3件に入る工事は契約書類を付ける必要があることです。また、工事経歴書に書いた工事が3件に満たなくても、実際に3件以上の実績があるなら、3件目まで付けます。つまり「工事経歴書に載せた工事」ではなく「その業種でいちばん大きい3件」の書類をそろえる、と考えるのが正確です。
変更契約で金額が増えたり減ったりした工事は、当初の契約書、変更契約書の順に整理します。手引きでは、当初の契約書に増減と最終の請負金額をえんぴつで書き込み、契約書は工事経歴書の記載順に並べるように求めています。
認められる契約書類は3つの形

手引きの「契約書等について」では、審査を受ける業種の完成工事高を、次の契約書等で確かめるとしています。
| 契約の形 | 付けるもの |
|---|---|
| 契約書を交わした | 工事請負契約書(変更があれば変更契約書も) |
| 注文書・請書の形で受けた | 注文書と請書の両方。約款が付いていないときは基本契約書も |
| 官公庁から請書の形で受けた | その官公庁の請書、または発注した官公庁の施工証明書 |
契約書は、公共工事標準請負契約約款や民間建設工事標準請負契約約款などの標準約款によるものが基本ですが、それ以外の書式でも建設業法19条の内容(工事内容、請負代金の額など)を満たしていれば構いません。電子契約で交わしたものは、印刷して付けます。手引きには、この場合は押印も印紙の貼り付けも不要と書かれています。
注文書だけでは足りない理由

工事の契約は、注文する側の「お願いします」と、受ける側の「この内容で請けます」がそろって成り立ちます。契約書は1枚の書類に双方の名前が入っているので、それだけで両方の意思が分かります。
一方、注文書は注文する側の申し込みしか示していません。受けた側が承諾したことを示すのが請書です。だから注文書・請書の形で受けた工事は、2つがそろって初めて契約書の代わりになります。手引きが「注文書と請書」を組みで求めているのはこのためです。
建設業法19条は、工事の請負契約を結ぶときに、工事内容や請負代金の額などを書面に書き、署名または記名押印をして相互に交付することを求めています。注文書しか残っていない取引は、経審のためだけでなく、法律の上でも書面がそろっていない状態です。
請書が無いときは、受けた会社が作る

元請から注文書は届いたものの、請書を返していなかった、というのはよくあることです。請書は注文を受けた側が「この内容で請けます」と示す書類なので、作るのは受注した会社です。元請が作ってくれるものではありません。
作るときは、注文書と食い違いが無いようにします。
- 注文書の工事名、工事場所、請負金額、工期を確かめる
- 同じ工事名・金額・工期で請書を作り、会社の名前を入れる
- 注文した会社へ渡す(紙で渡すか、PDFにしてメールで送る)
- 控えを残し、経審の上位3件に入る工事なら注文書と組みで付ける
ここで大事なのは、事実と違う内容を書かないことです。日付や金額を実際と変えた書類で申請すると、虚偽の申請になります。熊本県の手引きの冒頭にも、経審の書類に虚偽の記載をすると監督処分や罰則の対象になると書かれています。請書は「受けた内容をそのまま書面にする」ものとして作ります。
電子の請書に印紙は要る?

請負契約の成立を証する請書を紙で作って相手に渡すと、印紙税の課税文書になります。一方、国税庁の質疑応答事例では、請書の代わりに電子署名を付けた電磁的記録をメールで送る場合について、印紙税の対象は「文書」であり電磁的記録は文書に含まれないので、印紙税は課税されないとしています。
福岡国税局が公表している事例でも、注文請書の現物を渡さず、PDFにしてメールで送るだけなら課税文書の作成にはならない、という考え方が示されています。ただし、メールで送ったあとに同じ請書の紙を持参するなどして渡せば、その紙には印紙税がかかります。
経審に付けるときは、PDFで交わした請書を印刷して出します。熊本県の手引きも、電子契約の場合は印刷して出し、押印も印紙の貼り付けも不要としています。
工事名は契約書類と工事経歴書でそろえる

経審では、契約書類を見て、その工事が審査を受ける業種の工事かどうかを確かめます。手引きでは、契約書が無いなど、審査を受ける業種の工事であることが確認できないものは「その他工事」として扱うとしています。その他工事になると、その業種の完成工事高には入りません。
だから、工事経歴書に書く工事名は、契約書類に書かれた工事名と合わせます。現場での呼び名や社内の管理名で工事経歴書を書くと、どの契約書類の工事なのか見比べられなくなります。契約書類の工事名が実際の工事の中身と合っていないときは、工事経歴書だけを書き換えるのではなく、契約書類の段階で工事の中身が分かる名前にしておくのが確実です。
よくある質問

上位3件に入らない工事も、契約書類は要りますか
経審の申請で付けるのは、業種ごとの上位3件だけです。ただし、建設業法19条では工事ごとに書面の契約が求められているので、上位3件以外の工事も、注文書と請書などを交わしておくのが本来の形です。
基本契約書があれば、個別の請書は要りませんか
基本契約書だけでは、個々の工事の工事名や請負金額が分かりません。熊本県の手引きは、注文書と請書に約款が付いていないときに、基本契約書も一緒に出すように求めています。個々の工事については、注文書と請書(または個別の契約書)で金額と工事名を示します。
請書を紙で作って印紙を貼っていませんでした
紙の請書を相手に渡した場合は、その請書は印紙税の課税文書になります。これから作るものは、PDFにしてメールで送る形にすると、紙を渡さない限り印紙税はかかりません。
官公庁の工事で、請書しか手元にありません
官公庁との契約で請書の形をとっている場合は、その官公庁が採用している請書か、発注した官公庁の施工証明書で確認されます。
出典・参考
- 経営事項審査申請の手引き(令和8年7月版)PDF(熊本県)…提出書類一覧(上位3件)、契約書等について、虚偽の記載をした場合について
- 令和8年度(2026年度)経営事項審査について(熊本県)
- 取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い(国税庁 質疑応答事例)
- 請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について(福岡国税局 文書回答事例)
- 建設業法(e-Gov法令検索)…第19条(建設工事の請負契約の内容)
まとめ
- 経審で契約書類を付けるのは、業種ごとに請負金額の大きい順の上位3件。工事経歴書に書いていない工事でも、上位3件なら付けます
- 注文書・請書の形で受けた工事は、注文書と請書の両方が要ります。注文書だけでは足りません
- 請書が無いときは、受注した会社が注文書と同じ内容で作って相手に渡します。事実と違う内容は書きません
- 請書をPDFにしてメールで送るなら、紙を渡さない限り印紙税はかかりません
- 工事名は契約書類と工事経歴書でそろえます。業種が確かめられない工事は「その他工事」になります
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ノーサイド行政書士法人は、熊本の建設業許可・経営事項審査・入札参加資格申請を支援している行政書士法人です。決算書と工事の一覧をお預かりし、業種ごとの上位3件の洗い出し、足りない契約書類の確認、工事経歴書の作成までまとめてお受けしています。


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